ロードバイクなどのスポーツ自転車に乗っている方であれば、「自転車に乗り過ぎるとEDになる」という話を聞いたことがあるのではないでしょか。確かにスポーツ自転車などのサドルが高くて、細い構造のものは、股間への負担が大きくなっているようにも思えます。また、多くの方が長時間自転車に乗った後、おしりが痛くなってしまうことを経験されているはずです。自転車に乗っているときに、体重を支える下半身へ負担が生じることは間違いありませんが、果たしてEDの原因となるようなものなのでしょうか。
勃起のメカニズム
そもそも勃起はどのようにして起こるものなのでしょうか。そのメカニズムを見ていくところから、自転車の勃起への影響を見ていきたいと思います。男性のペニスは、女性の裸を見たり、ペニスを直接刺激されることで、勃起が促されていきます。視覚で得られた性的な刺激では、大脳の視床下部というところから勃起を促す指令が出されます。これが脊髄の勃起中枢という勃起を司る神経へ伝わると、そこから自律神経という神経を通って海綿体へ充血を促す物質が出されるのです。ペニスを直接刺激されると、この刺激は脊髄の勃起中枢へとすぐに伝わり、同様に勃起が促されます。
自律神経
勃起中枢から勃起の指令が伝達される「自律神経」は、交感神経と副交感神経の二つで成り立っておりシーソーのようにバランスを取っています。交感神経は興奮していたり緊張していたりするときに優位になる神経で、逆にリラックスしていたり寝ているときは副交感神経が優位になっています。勃起中枢からの勃起の指示は、このうちの副交感神経が優位の状態の時に伝達されやすくなっており、緊張していたり、不安を感じているときは伝達されにくいものになっています。「心因性」のEDの原因として、この副交感神経が優位でないことがほとんどの場合当てはまります。
心因性EDと器質性ED
具体的には、性行の経験がない方が初めて性行為に臨む場合や、彼女が変わった後の性行為の際にしっかりと勃起が起こらない場合などは、このような「心因性のED」というものが多いと言われています。特に若年層の方に多くみられるEDで、バイアグラ・レビトラ・シアリスなどのED治療薬で十分な勃起で自信を得ることで、不安や心配を取り除きEDを改善することができます。
自律神経から指示を受けると血管からNO(一酸化窒素)という物質が放出され、そのNOによって血管の拡張が促され、血管が拡張され海綿体への充血が促されることで勃起がおこります。血管に自律神経の勃起の指示が届いていても、NOの分泌が十分でなければ、当然勃起も十分ではなくなってしまうことがあります。動脈硬化症などで、血管の内皮に障害がある方はNOの分泌が十分でないために、EDの症状が出てしまうのです。これはさきほどの「心因性」のEDに対して「器質性」のEDとされています。
股間の圧迫
このようにみていくと、勃起がおこるメカニズムには一般的に想像されている「性的な刺激」だけでなく、その刺激がペニスの充血を促すまでの「神経の伝達」が非常に重要であることがわかります。ここで本題である「自転車でEDが起こるのか」ということに戻ってみたいと思います。
股間には特に神経が集中しているわけではありませんが、当然強い圧迫を長時間続けることで神経へのダメージが引き起こされることは想像できます。言ってしまえば、毎日ご飯を大量に食べ続ければ、当然後々体に支障が出てくるように、ご飯を食べること自体には問題がなくても、それが極端になってしまうとその限りではなくなってしまうわけです。シティサイクル、ママチャリといったお尻全体で体を支える構造で、股間に極端な負担のかからないものであれば、日常での使用において特に問題があるといは言えませんが、ロードバイク、クロスバイクなどの座高が高く、シートの面積も狭いものになると少し気にかけておいてもよいと言えます。
股間の圧迫で気になることは、前立腺への負担です。ロンドン大学ユニバーシティカレッジが2012~2013年に行った、男性のサイクリスト約5,000人に行った調査によると、50歳以上の男性で特に週に8時間30分以上自転車に乗っている方に、前立腺がんのリスクが上昇するという結果が示されています。前立腺への負担との因果関係は不明ですが、長時間のサイクリングが前立腺がんと関わりがある可能性があります。
サイクリングはリスクばかり?
また一方で、同調査ではそのリスクを踏まえても、自転車にのることで健康に寄与する面も紹介しています。2型糖尿病、心臓病、脳卒中のリスクを低減させることができたり、体重のコントロールにも役立つものであるとのことです。
私も休日にロードバイクでサイクリングに出ることがあります。自分のペースで無理なくこぎ続けることが出来るサイクリングは、有酸素運動として非常に理に適ってますので、時間を見つけてはなるべく乗るようにしています。今のところ股間への負担で体への異常を感じたことはありませんし、やはり前述の通り「程度問題」と言えるのはではないでしょうか。
自転車のスペック、体調、走行距離など、様々な要素でより楽しむことができますし、なにより気分転換には最適な運動のひとつです。あまり臆することなく、ご自身にあったサイクリングをお勧めいたします。
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